「親が残した空き家を相続したくない」「維持費や管理の手間を考えると、とても引き受けられない」——そう感じている方は決して少なくありません。そのような場合、相続放棄という選択肢が頭に浮かぶことも多いでしょう。
しかし、「相続放棄さえすれば、空き家のことは何も関係なくなる」と考えていると、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。特に2023年の民法改正によって、相続放棄後の管理義務のルールが明確化されました。放棄を検討する前に、正確な知識を持っておくことがとても大切です。
この記事では、空き家の相続放棄の基本から、放棄後に残る管理義務、起こりうるリスク、手続きの流れ、そして放棄以外の選択肢まで、わかりやすく解説します。
空き家を相続放棄するとはどういうことか|基本をおさらい
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産や負債をすべて引き継がない、と家庭裁判所に申述する手続きです。放棄が認められると、その人は「最初から相続人ではなかった」とみなされます。
空き家を含む不動産は「プラスの財産」ですが、管理費・修繕費・固定資産税などがかさむ場合、実質的に負担の大きい資産になることがあります。そのため、「不動産だけ放棄したい」と思う方も多いのですが、相続放棄は財産を選んで放棄することができません。預貯金や有価証券なども含め、すべての遺産を一括で放棄することになります。
また、相続人の一人が放棄すると、その人の相続分は次順位の相続人に移ります。たとえば子が全員放棄すると、被相続人の親や兄弟姉妹へと相続権が移るため、親族間でのトラブルになるケースも少なくありません。放棄を決める前に、他の相続人とよく話し合っておくことが重要です。
空き家を相続した後の最初にすべき手続きについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

相続放棄しても管理義務が残る?改正民法のポイント
「相続放棄したのに管理義務が残るの?」と驚く方も多いかもしれません。これは非常に重要なポイントです。
改正民法940条の規定
2023年4月施行の改正民法により、民法940条が整備されました。改正後の規定では、相続放棄をした者は、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」とされています。
つまり、相続放棄をしたとしても、空き家を現実に管理・占有している状態であれば、次の管理者(他の相続人や相続財産清算人)に引き渡すまでの間は保存義務が続くということです。
改正前は「相続人の全員が放棄した場合、最後に放棄した相続人が管理義務を負う」という解釈が一般的でしたが、改正によって「現に占有している者」に限定されたことで、実態に即した運用がされるようになりました。
「保存義務」とは具体的に何をすべきか
保存義務の内容は法律上明示されているわけではありませんが、一般的には以下のようなことが求められると考えられています。
- 建物が倒壊・損壊しないよう最低限の管理を続ける
- 不審者の侵入や火災を防ぐための施錠・見回り
- 近隣に被害を与えるような放置をしない
放棄したからといって空き家を完全に放置してしまうと、近隣への損害が生じた場合に賠償責任を問われるリスクも否定できません。具体的な義務の範囲や責任については、司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
相続人全員が放棄した場合——相続財産清算人制度
相続人全員が放棄した場合、空き家は「相続人不存在」の状態になります。この場合、利害関係人や検察官の申し立てによって、家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。清算人が空き家の管理・処分・債務弁済などを行い、最終的に残った財産は国庫に帰属します。
ただし、清算人の選任申立には費用がかかるうえ、手続きが長引くケースもあります。「誰も相続しないから後は知らない」という状態のまま放置することは、近隣住民や自治体とのトラブルにつながりかねないため注意が必要です。
空き家を相続放棄した後に起こりうるリスクと注意点
相続放棄には、思わぬリスクが伴うことがあります。主な注意点を確認しておきましょう。
①建物の老朽化・近隣への影響
管理されない空き家は急速に劣化します。屋根や外壁の崩落、雑草・害虫の繁殖、不法投棄の温床になるといったケースも珍しくありません。空き家対策特別措置法に基づき、自治体が「特定空き家」に指定すると、固定資産税の住宅用地特例が外れ、税負担が大幅に増加する場合があります。また、勧告・命令・代執行(強制的な解体)に至るケースもあります。
空き家の放置と固定資産税の関係については、こちらの記事も参考にしてください。

②次順位の相続人への影響
前述のとおり、ある相続人が放棄すると相続権が次順位に移ります。何も知らない親族が突然「あなたが相続人です」と通知を受け、戸惑うケースも実際に起きています。放棄を決める場合は、次順位の親族にも早めに連絡し、話し合いの場を設けることが大切です。
③相続放棄の「取消し」はほぼできない
家庭裁判所に受理された相続放棄は、原則として取り消すことができません。「やっぱり相続すればよかった」と後悔しても手遅れになるケースがあります。放棄を決断する前に、不動産の価値・売却可能性・活用策など、あらゆる選択肢を十分に検討することが重要です。
④固定資産税の支払い義務
相続放棄が認められる前の期間や、清算人が選任されるまでの間は、自治体から固定資産税の納税通知が届くことがあります。法的には放棄者に納税義務がないケースもありますが、通知への対応が必要になる場面もあるため、自治体や専門家に確認しながら進めましょう。
相続放棄の手続きの流れ・期限・費用
相続放棄は正式な法的手続きであり、期限や書類の準備が必要です。以下に基本的な流れをまとめます。
手続きの流れ
- ①相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申述する
- ②申述先:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
- ③必要書類(一般的なケース):
- 相続放棄申述書
- 申述人の戸籍謄本
- 被相続人の死亡が確認できる戸籍(除籍)謄本
- その他、裁判所から求められる書類
- ④収入印紙・切手:申述1件あたり収入印紙800円+郵便切手(裁判所により異なる)
- ⑤受理通知が届けば手続き完了
3か月の期限に注意
「相続の開始を知った日から3か月」という期限(熟慮期間)は非常に重要です。この期限を過ぎると、原則として相続を承認したとみなされ、放棄ができなくなります。ただし、財産の存在を知らなかったなどの特別な事情がある場合は、期限の延長や例外的な取り扱いが認められることもあります。詳しくは家庭裁判所や司法書士・弁護士にご確認ください。
専門家に依頼する場合の費用目安
司法書士に依頼する場合、3万〜5万円程度が相場とされています(事務所や内容によって異なります)。弁護士の場合はさらに高くなることもあります。書類が複雑な場合や期限が迫っている場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄以外の選択肢|売却・空き家バンク・国庫帰属制度との比較
「相続放棄しかない」と思い込まずに、他の選択肢も検討してみましょう。状況によっては、放棄よりも有利な結果が得られることがあります。
①売却する
空き家でも不動産として売却できる場合があります。更地にして売る方法や、古家付き土地として売り出す方法、リフォームして売る方法など、さまざまなアプローチがあります。売却益が出れば、固定資産税や管理費の負担から解放されるうえ、まとまった資金を得ることができます。なお、相続した空き家を売却する際は、3,000万円特別控除などの税務上の特例が適用できる場合がありますが、要件や手続きの詳細は税理士や自治体窓口にご確認ください。
ただし、立地条件や建物の状態によっては売却が難しいケースもあります。相続した空き家の売却方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

②空き家バンクに登録する
自治体が運営する空き家バンクに登録すると、移住希望者や活用希望者とのマッチングが期待できます。無償譲渡や安価での売却も可能で、所有者としての負担を軽減できる場合があります。売却が難しい地方の物件でも活用されるケースがあります。
③賃貸に出す
リフォームや最低限の整備を行い、賃貸物件として活用する方法もあります。家賃収入を得ながら固定資産税や維持費を賄えるケースもあります。ただし、入居者の確保や管理コストも発生するため、収支のシミュレーションが欠かせません。
④相続土地国庫帰属制度を利用する
相続土地国庫帰属制度は、2023年4月に施行された制度で、相続した土地を一定の要件のもとで国に引き取ってもらえる仕組みです。建物がある場合は利用できないなど条件があり、審査手数料や10年分の管理費相当額の負担金も必要になります。空き家がある場合は、まず解体して更地にすることが前提となるケースが多いです。要件の詳細や申請手続きは法務局または司法書士・行政書士にご確認ください。
選択肢の比較まとめ
- 相続放棄:すべての財産を放棄。管理義務が一定期間残る。次順位相続人への影響あり
- 売却:資産として換金できる。売却困難な場合もある
- 空き家バンク:売却難物件でもマッチングの可能性あり
- 賃貸活用:収入を得ながら所有継続。管理コストが発生
- 国庫帰属制度:更地が条件。費用負担あり。要件を満たせば手放せる
空き家の相続放棄で迷ったときの相談先と選び方
相続放棄や空き家の処分に関しては、複数の専門家が関わります。状況に応じて適切な相談先を選ぶことが重要です。
司法書士
相続放棄の申述手続きや相続登記など、法的な書類作成・手続きに強みがあります。費用も比較的リーズナブルで、相続手続きの入り口として相談しやすい専門家です。
弁護士
相続人間のトラブルや、管理義務に関する法律上の解釈など、争いが生じている場面や複雑な法律問題に対応できます。紛争になる前に相談することで、解決の幅が広がることもあります。
税理士
相続税の申告・納税猶予・特例の活用など、税務面の判断が必要な場合に頼りになります。相続放棄によって相続税がどう変わるかなど、税務的な影響を確認したい場合は税理士に相談しましょう。
不動産会社・空き家相談窓口
売却や賃貸活用を検討する場合は、地域の不動産会社への相談が有効です。また、自治体によっては空き家相談窓口を設けているところもあり、無料相談ができる場合があります。
相談先を選ぶポイント
- 手続き面の相談 → 司法書士・弁護士
- 税金面の相談 → 税理士
- 売却・活用の相談 → 不動産会社・自治体窓口
- 総合的な相談 → 弁護士・司法書士(相続専門事務所)
なお、制度の適用条件や手続きの詳細は、地域や個別の事情によって異なります。自治体の窓口・司法書士・弁護士・税理士など、専門家に直接ご確認いただくことを強くおすすめします。
まとめ
空き家の相続放棄は、負担から逃れるための有効な手段の一つですが、「放棄すれば全て終わり」とはいきません。改正民法により、現に占有している場合は放棄後も一定の保存義務が残ることが明確化されています。また、次順位の相続人への影響や、放棄後の空き家放置リスクなども見落とせないポイントです。
相続放棄を選ぶかどうかは、空き家の状態・立地・他の相続人との関係・税務的な影響などを総合的に判断する必要があります。「放棄しかない」と思い込まず、売却・空き家バンク・国庫帰属制度など他の選択肢も検討したうえで、専門家に相談しながら最善の方法を選んでください。
早めに動くことが、トラブルを防ぎ、選択肢を広げることにつながります。まずは地域の相談窓口や専門家へのコンタクトから始めてみましょう。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・不動産に関する個別の助言ではありません。具体的な手続きや判断については、司法書士・行政書士・税理士などの専門家、または地域の農業委員会・自治体の窓口にご確認ください。
アイキャッチ画像: Photo by Huu Huynh / Pexels


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